更年期女性の高血圧
高血圧はほとんど自覚症状がない「サイレントキラー」と呼ばれ、放っておけば動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの突然死の発症率が増加することは以前の循環器だよりでお伝えしました。
高血圧は、どちらかと言えば男性疾患のイメージがあります。実際、男性の方が喫煙習慣などの発症リスクが高く患者数も多いのですが、意外に更年期の女性の高血圧有病率が高い事はあまり知られていません。
更年期によくみられる、めまい、動悸、頭痛、ホットフラッシュ、イライラなどの症状は、女性ホルモンのエストロゲン低下によるものです。エストロゲンが低下すると、血管の内側部分をつくっている血管内皮(けっかんないひ)の働きが弱くなります。血管内皮は、血管の柔軟性の維持にとても大切な働きをしているほか、体内のナトリウム(食塩の成分)の体外への排泄を促す一酸化窒素を産生しています。ストロゲンが減少して血管内皮の働きが弱くなると、血管の柔軟性が低下し、血管内容量を増加させるナトリウムが体内にとどまることになります。さらにエストロゲンが低下し、相対的に男性ホルモンが多くなると自律神経の1つである交感神経の働きが活発化したり、血圧上昇を促すレニンというホルモンの産生が上昇したりすることにより血圧が上がりやすくなります。
高血圧症の予備軍まで含めると、40歳代は5人に1人、50歳代では半数近くが高血圧か、その危険性があると報告されています。
更年期高血圧には、血圧が不安定で変動しやすいという特徴があります。普段の生活ではそれほど高くないのに、イライラする、ストレスが増す、睡眠不足、環境の変化などちょっとしたことがきっかけで血圧が変動しやすいのです。一時的な血圧上昇ぐらい、と気にせず放置すると、最初にお伝えしたような重大な病気のリスクになり得ます。
若いころから血圧が低めで「自分は低血圧」だと思っている女性は少なくありません。血圧は健診のときぐらいにしか測定しないし、正常だったから気にしていないという方も多いのです。
更年期の時期は子供の就職や独立、親の介護など環境の変化も重なる時期です。また、昨今のコロナ下で生活リズムが変わり、それがストレスの要因になっている方も多くみられます。早期発見により適切な医師の指示を受けることで血圧のコントロールは可能になります。
最近なんとなくだるい、頭痛・めまいがする、など病院に行くほどではないが気になる症状のあるという方には人間ドックをお勧めします。どういったドックを選択すればよいかわからない、忙しくてなかなか時間がとれない、などのご相談も、お問い合わせいただければ担当スタッフがわかりやすくご説明させていただきます。
また、既に家庭で血圧を測定して血圧が高いと自覚されている方には高血圧外来の受診をお勧めします。かかりつけ医として常日頃の体調管理をさせていただきます。
いずれにせよ早期発見、早期治療が肝要です。